近年、「健康経営」や「健康投資」の視点が日本の企業でも関心が高まっています。健康経営や健康投資とはどんなことをいうのでしょうか?また、社員の健康状態を把握するには勤怠状況を迅速に正しく把握して活用するのが効果的です。ここでは、健康経営を視野に、社員の健康増進への取り組みや勤怠情報の活かし方などをご紹介します。
最近、耳にする「健康経営」「健康投資」とは?
- 企業の経営と社員の健康との関係
健康保険料は、現在、医療費の増加に伴い上昇しています。健康保険料を社員と折半して支払っている企業にとっては負担額が増加し、経営に及ぼす影響も決して少なくありません。医療費の増加を抑制することや、社員の健康障害による労働力の低下とそれに伴う生産性の低下を防ぐには社員の健康増進が重要です。
企業が社員の健康を保持・増進させる対策を講じるとなれば費用がかかるでしょう。しかし、この費用は無駄になるものではなく“将来への投資”と捉えることができ、これを「健康投資」と呼んでいます。
一方、「健康経営」は“企業の経営戦略”として注目されているもので、アメリカの経営心理学者、ロバート・H・ローゼンが提唱した概念です。アメリカでは社員の健康障害によって生産性の低下が生じることは“企業の損失”という考えが古くからあり、健康障害を予防する産業保健活動が活発に行われてきました。
健康的な社員は不健康な人に比べて生産性が高く、企業への貢献度も高いとされ、社員の健康管理をすることが企業の収益性によい影響を与えると考えられています。そのため、経営者は社員の健康保持・増進を“企業の経営課題”とし、自社の社員に必要な対策を具体的に講じることが重要です。対策としては、たとえば長時間労働の削減のほか、生活習慣病やメンタルヘルスの不調を防ぐなどの健康増進に向けた対策が挙げられます。
現在は、日本でも産業保健活動の必要性がいわれるようになり、積極的に取り組んでいる企業も多くなりました。しかし、病気による休職者、特に精神障害で長期間、休職する人が増えており、生産性の低下とともに復職を支援する上で必要となる人件費の高さなども指摘されています。このような中、平成26年に経済産業省が「企業の『健康投資』ガイドブック」を発表したことによって、健康投資や健康経営の考え方がより注目されるようになりました。
- 企業にとっては労災を防ぐことも重要
長時間労働が常態化しているなど過重労働を強いられる職場では過労死や健康障害などの問題が起きています。社員が命を失うという深刻な問題のほか、労災や訴訟となった場合、企業にとしては金銭的な損失だけでなく、ブランドイメージなど大きなダメージを受けることが予想されます。その意味でも、過労死や過労による自殺を防ぎ、労災を起こさないよう努力することは企業に求められる重要な取り組みです。そのため、社員の健康障害を防ぐことが一層、重要視されるようになり、健康投資や健康経営の視点が日本でも必要となってきました。
*「企業の「健康投資」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~」
社員の健康状態は適切な勤怠管理で正しく把握!
社員の健康状態は、遅刻や休みが続いているなどの「勤怠の乱れ」として現れることもあります。遅刻が増えるのは心身の不調と限りませんが、社員の現在の様子をできるだけ早く把握することで必要な手当てを早めに行えるという点で、適切な勤怠管理は重要です。
逆に、勤怠管理を適正に行うと、長時間労働を防ぎ、健康障害を予防することにもつながります。また、休暇の取得率にも着目してください。休暇の取得理由はさまざまなため一概にはいえませんが、仕事以外の時間をもち、有意義に過ごすことは心身の健康に役立つことです。
社員の職業生活と家庭生活の調和、ワーク・ライフ・バランスを図ることは、企業への定着率を高め、生産性の向上につながるものとされています。自社に合った適切な勤怠管理方法を検討し、社員の現状を迅速に的確に知ることを通して健康管理を行い、社員がイキイキと働ける職場を目指しましょう。
貴重な情報の宝庫?勤怠データは経営に活かせる!
社員の出退勤の時刻など勤怠に関する情報をデータ化すると、どのような利点があるのでしょうか。勤怠を適切に管理すると残業が多くなる時期はいつか、労働時間が長い職場はどこか、また、休みや遅刻が多いのは誰か、どこの部署で多いのかなどを把握することもできます。勤怠の乱れがある社員を早めに発見して必要な措置を行えるだけでなく、コスト削減や生産性向上のための効果的な人材配置や業務分担を検討するときにも役立つでしょう。
さらに、社員の勤怠情報は社会保険労務士が提供している「経営労務診断サービス」の基本データとしても利用できる点がメリットです。経営労務診断は自社の労務管理に関する問題点を知り、改善の機会となるだけでなく、「企業経営の健全性」を示す機会にもなります。
どうすればいい?健康経営の効果をより高める方法
- 勤怠管理はデータとしての活用しやすさも重要
勤怠データを分析に使いやすいデータとするには、勤怠管理システムの導入が一つの方法といえるでしょう。手書きのデータや紙のタイムカードの場合、データをパソコン入力する段階でミスが起こる可能性があり、入力と集計を終えるまでに多くの時間が必要です。しかし、勤怠管理システムを利用するとパソコンで勤怠状況をリアルタイムで知ることができ、アラート機能を使うことで入力もれなどを修正することもできます。社員の勤怠状況をできるだけ早く把握して必要な対処をしたり、他のソフトと連動させてデータを活用したりするには勤怠管理システムの導入が効果的といえるでしょう。
経営労務診断のところでも述べたように、勤怠データと収益との関係を分析することは自社が抱える問題を明確にするだけでなく、自社の「強み」を知る機会となります。経営戦略としては問題点を少なくする視点とともに、「強みを伸ばす」というもう一つの視点が重要です。
- 心身をよりよい状態にする多様なサポート!
あなたの職場には衛生管理者はいらっしゃいますか?社員が50人以上いる事業場には、労働安全衛生法(安衛法)により産業医や衛生管理者の選任が義務づけられています。しかし、実態としては、産業医の勤務は月に1度のみ、衛生管理者はその役割をほとんど果たしていないといったことも少なくありません。社員の健康管理をする上では、産業医に活躍してもらえるように勤務日を増やす、あるいは衛生管理者が本来の役割を果たせるような業務分担とすることも必要でしょう。
また、安衛法では「1年以内ごとに1回」、定期健康診断を実施することも事業者の義務としています。健診は実施するだけでなく、病気を予防し、より健康な状態とするには健診結果に基づく対応が重要といわれ、保健師による保健指導などが効果的です。全国健康保険組合(協会けんぽ)では、保健指導を無料で受けられる体制を整えていますので利用するとよいでしょう。
法律で義務づけられたものではなく、企業独自で健康支援に力を入れているところも多いです。ストレス対処法やうつ病などをテーマにした研修会の開催、産業医や衛生管理者のほかに、保健師や心理士などの産業保健スタッフを企業内に配置して支援している企業もあります。
さらに、事業場外の支援機関であるEAPやカウンセリングルームなどと提携した支援も効果的でしょう。ある介護施設では、介護者の労災として認定されることが多い腰痛を緩和するために整骨院と提携するなど福利厚生の充実を図ったところ離職率を抑えられたといいます。
社員の仕事に関する満足度を高めるには不満の要因を取り除くという視点だけでなく、やりがいや快適な職場環境など満足度を高める要因への働きかけも必要です。社員の満足度を高め、社員が健康な状態で仕事に取り組めるように企業の重要課題として取り組むとよいでしょう。
まとめ
健康に関する取り組みは病気にならないという予防の視点、また、より健康的でイキイキとした状態になるように働きかける視点があります。問題が目立たない場合には、とかく後回しになりやすいものですが健康投資は「将来への投資」です。社員の健康が保たれて初めて十分な労働力の提供が可能となり、生産性の向上へとつながっていきます。そのためには適切な勤怠管理により不調を早期に発見し、必要な職場改善を図ることが重要です。