恥ずかしいけれども、夢は宣言する 元サッカー日本代表選手・中田浩二氏インタビュー

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公開日:2016.6.24

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日本代表としてワールドカップに二度出場し、フランス(オリンピック・マルセイユ)とスイス(FCバーゼル)への海外移籍も経験という輝かしい経歴を持つ中田浩二氏(以下、中田氏)。2015年からは、鹿島アントラーズのC.R.O(クラブ・リレーションズ・オフィサー)として、スポンサーやサポーター、自治体とクラブをつなぎ、ビジネス面からクラブを支える立場となりました。

現場志向だった中田氏が、選手を支える立場になり何を思うのか、選手時代から変わらず大切にしていること、今後の目標を聞きました。

 

裏方の大変さに気づき、選手時代を反省 

―選手を支える立場に変わって思うことはありますか。

現役時代を振り返って、「申し訳ないことをしたな」と後悔していることがあります。それはイベントのときです。選手って、イベント時はその場にほんの数十分前に来て説明を聞くだけなんです。私は現場に来たとき、感覚で「これはもっとこうしてほしい」なんて注文をつけていました。

でも運営側は、数か月前から多くのことを調整し、段取りを組み、タイムスケジュールを確認してきたはず。来てすぐの選手が一部だけを見て注文をつけるのは、相手にとても失礼だったと反省しています。当時の私はバックオフィスや裏方の大変さに気づいていなかったんです。

―それは裏方に立って初めて見えてくる視点ですね。そもそもセカンドキャリアとして、クラブの運営に携わる仕事を選ばれた理由は?

もともとは現場志向だったので、いずれ指導者の道を歩みたいと考えていました。でも海外から帰ってきたら、「お前は経営の方をやったらいいんじゃないか」というお話をクラブ役員からいただくようになりそれから試合を支えてくれている人たちに目が向くようになりました。

また、監督を目指す人が多すぎるかな、という思いもありました。僕より年上の名波さん(名波浩氏 ジュビロ磐田の監督)やオグさん(小倉隆史氏 名古屋グランパスのゼネラルマネージャー兼監督)が今やっと監督になり始めたところ。僕たちの世代が監督になれるのは、相当先になるかもしれないですし。

日本サッカー界の経営やフロントに現場を知っている人間がいれば、より選手目線のクラブ経営、Jリーグ運営ができるのではないかと思い、事業に比重を置いて挑戦することを決意しました。

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トルシエ、ジーコがやっていたことを、今深掘りする 

―サッカー選手から、経営に携わる側となり苦労していることは?

中田氏:今までサッカーしかしてきていないので、パソコン操作などのビジネススキルの習得はハードルが高いですね(笑)。ワードやエクセル、パワーポイントなどを、今必死に覚えています。

またJリーグと立命館大学がコラボして人材を育成する「JHC教育・研修コース」にも通い、コミュニケーションやリーダーシップ、財務会計などJリーグ経営に必要とされることも学びました。

その中で、最初の授業はロジカルシンキング。これには戸惑いました。スポーツ選手は瞬時の判断は得意です。しかし、論理的に考えて組み立てることには慣れていない…。ロジックツリーを作り上げる課題を前に、なんだか変なところにきたなって(笑)。それでも、講義を受け課題を出していく中で、ゴールから逆算し、順序立ててしっかり考えられるようになってきたという実感はあります。これによって物事の見方が変わってきましたね。

リーダーシップの課題では、トルシエやジーコのことを思い出しました。「そういえば、トルシエやジーコもこういうふうにやっていたな」と。体で分かっていたことをちゃんと言葉で説明を受けたことで、彼らの行動や言葉の背景にあったものも見えてきて、深堀りできたように思います。

会社に入ってからしっかり勉強すれば、アスリートもちゃんと論理的に考えられるようになると思うんです。 

―現在の鹿島アントラーズで、経営に向いていると思う選手はいますか?

柴崎岳なんかは向いていると思います。彼のように頭で考えてプレーしている選手、物事を俯瞰して見るタイプの選手は、ほかの人に説明することができるので、経営に向いていると思います。だから小笠原満男なんかもできると思いますね、少し口下手ですが(笑)。意外と経営に向いている人は多いと思います。

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現場に遠慮しすぎてはいいものができない

―フロントに立って見えてきたことはありますか? 

プロにならなくちゃいけないのは、経営者だと感じています。もちろん、今でもやるべきことはやっています。でも、売り上げとか入場者数とかについては、「去年がこうだったから、今年はこれくらいでいいか」と、何となく限界を決めちゃっている部分があるのかなと。そこは熱くなって、上を目指してもいいんじゃないかと思います。

選手には「優勝してくれ」って求めているわけですから。フロントももっと熱くなって、各部署で考えたものを共有し、議論していけば、いいものが出てくるはずです。

選手が夢をもって輝けるように、プレイヤーファーストで経営できるかもしれない。Jリーグ全体が興行目的だけでなくて、選手のためを考え、お膳立てしていくことで、より選手を輝かせることができるのではと考えています。 

―C.R.Oとして大切にしていることは?

C.R.Oとはクラブとステークホルダーとの連携をつかさどる役職。チーム、スポンサー企業、メディアなど、ステークホルダーは多岐にわたります。つまり、さまざまな立場の人と良い関係を築くために、柔軟性を大切にしています。

選手として積み上げたものが通用しないことが多い中で、それでも自分でやっていかなければいけません。だからと言って、すべて受け身でいると自分がここにいる意味がなくなってしまう。その辺をうまく折り合いをつけ、聞く耳をもって学びながらも、自分が自分であるためのバランスも大切にしています。

また、いろいろなことを想定して、いつもなぜ、なぜ、なぜと考えるようにしています。説明しなければいけないときや、バランスをとらないといけないときのための準備としてです。組織で仕事をする以上、求められる能力ですね。

―選手経験者がフロントにいることは、どういった点で価値があると感じていますか?

実はフロントの人は、選手との関わり方が分からないことが多いんです。例えばイベント企画時に、プレーに専念すべき選手に、「どこまでお願いしていいのだろうか」と気が引けるんですね。でも元選手の僕はどこでラインを引くべきか判断できますし、選手らにも言いやすい。それは価値だと感じています。

去年からフロントと選手の間でより深く連携できるようになってきました。これまでは選手に「やってください」と上から下ろしていただけのものが、選手の意見を取り入れて一緒に作っていけるようになりました。裏方にも相手を知る努力が必要だと感じています。

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対話にはもっと踏み込む勇気が必要

―バックオフィスの業務は評価されにくい側面があるのですが、監督やチームメイトにどのようにアピールされていたのか教えてください。

単純なことですが、ポジティブにやればポジティブに伝わると思っているんです。特に海外では、監督もチームメイトもお互いの考えていることなんて分かりません。当時は言葉の壁もあって、初めはほとんどコミュニケーションをとっていませんでした。でもそれじゃダメだと考え、オフのときを見計らってコミュニケーションをとるようにしました。

オフのときって人間性が見えてくるんです。だから、オフのときにコミュニケーションをとっていくと、オンのときも仲良くなる。そして、欲しいタイミングでパスが回ってくるようになる。上司でも同僚でも、コミュニケーションをとって相手のことが分かれば、お互いの捉え方が変わってくるように思います。

僕も若いときは、いろいろと思うところがありました。でも大先輩の秋田さん(秋田豊氏、現サッカー解説者)とかに言われると、「はい」って言うしかなかった。でもあるとき言い返してみたら、意外にも、向こうも聞く耳持っていたんですよ(笑)。

だからほんとにコミュニケーションは大事。やっぱり踏み込まないと、いい仕事ってできないんじゃないかな。

―今後どのようなチャレンジしていこうとお考えですか。

Jリーグのチェアマンを目指しています。今は周りの人たちにいろいろ手伝ってもらっている段階ですが、欠けてる部分を基礎から積みあげて、将来的には経営者になりたい。選手たちがよりスキルアップできるような環境を作るにはどうしたらよいか、チームの人気度をあげるにはどうしたらよいかなどは、経営の立場でないとできないことですよね。

僕はJリーグのチェアマンになって、Jリーグを変えたいです。目標を口に出すのって、すごく恥ずかしいし勇気も必要です。でも言わないとかなわない、目標のための目標で終わってしまう。だから僕は、恥ずかしいけれども、夢は宣言するようにしています。

―ありがとうございました!

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編集後記

「パワポを覚えている」「資料を一人で作れるようにならないと」と生々しい苦労話と共に、スケールの大きな夢を語る中田氏。

「本気で変えたいんだったら、そこに立たないとだめだ」とJリーグのチェアマンという目標を語る姿には、選手や監督という表舞台ではなく、裏方として日本のサッカー界全体に影響を与えていくという強い意志が感じられました。

※肩書きは2016年5月時点のものです

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