自己申告制度とは、従業員が会社に対して自らの意向や自己評価を申告する制度のことです。従業員の意向を聞き入れることで適材適所な人材配置が可能となり、人事異動の判断材料にもなります。また、従業員の自己評価を参考に上司の人事評価と乖離がないか確認でき、公平な評価にもつながります。今回は自己申告制度の概要、自己申告制度を導入する目的やメリット・デメリット、実際の活用事例を解説します。
目次
自己申告制度を活用する会社が増えている
自己申告制度とは
自己申告制度とは、従業員自らが職務上の目標や遂行状況、自身の適性や問題点などを自己評価し、申告させる人事制度です。申告をもとに従業員の適性や能力を判断し、適切な人材配置や人事異動が可能になるなどの利点があります。従業員の自己評価と上司の人事評価を照らし合わせることで、公平・公正な評価が可能であることも利点です。一方で、自己評価と人事評価にギャップがある場合や、申告通りの人材配置ができない場合などは、かえって従業員のモチベーションが低下してしまうリスクもあります。納得感のある人事評価を実現するため、必ず申告に対するフィードバックを実施するようにしましょう。
社内公募制との違い
社内公募制とは、人材を補填したい部署・部門が社内から希望者を募り、募集に応じて従業員が自発的に応募することができる制度です。自己申告制度は自己評価を申告する人事制度であるため、たとえ人事異動の希望を出したとしても、希望通りに異動ができるか否かは自己評価に基づく人事評価に応じて判断されます。例えば、人材の過不足や従業員の育成のため、希望とは異なる部門に配置される可能性もあるでしょう。自己申告制度では自身の申告が人材配置の一つの参考情報として扱われるため、人事異動と申告内容との因果関係が明確ではありません。一方、社内公募制では応募内容が直接選考のための情報として取り扱われ合否が通知されるため、人事異動と応募内容との因果関係が明確です。
自己申告制度を導入する目的
自己申告制度を導入する主な目的は三つあります。まず、一つ目の目的は、従業員の意向確認です。キャリアパスの希望や配置転換・人事異動の希望を確認することで、従業員と会社の双方に最適な人材配置が可能となります。続いて、二つ目の目的は事実確認です。現在の職務に満足しているのか、スキルは十分か、問題点はないかなど、従業員の自己評価を確認します。自己評価と上司の評価を照らし合わせることで、公平・公正な人事評価を実現可能です。最後に、三つ目の目的はキャリア開発です。自己申告制度では従業員の有しているスキルが明確になります。会社は従業員のスキルを最大限活かせるよう、適材適所な人材配置が可能です。さらに、戦略上重要となるスキルを身に付けさせるなど、会社は従業員に対し戦略的人事が可能となります。
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自己申告制度のメリット・デメリット
メリット1:モチベーションの向上につながる
自己申告制度の一つ目のメリットは、申告によって従業員の希望や適性を把握し、適材適所な人材配置を行うことで、従業員のモチベーション向上が期待できる点です。モチベーションを維持して仕事に取り組むには、やりたいこと・できることを満たした上で、やるべきことに取り組む状況が重要だといわれています。ジョブチャレンジ制度や社内公募制などとあわせて導入することで、より難易度の高い業務に挑戦する後押しにもなるでしょう。自己申告制度で従業員のやりたいこととできることを吸い出し、会社としてやるべきこととのバランスを見ながら人材配置を行えることは大きなメリットです。
メリット2:ギャップを把握できる
自己申告制度の二つ目のメリットは、従業員と会社のギャップが把握できる点です。従業員の自己評価と会社の人事評価に乖離がある場合、従業員は自身の働きが十分評価されていないと感じ、仕事に対するモチベーションが低下してしまいます。自己申告制度では従業員の自己評価と上司の評価が可視化されるため、公平・公正な人事評価が可能です。数字には表れにくい努力や成果を直接申告できるため、納得感をもって仕事に取り組むことができるのが自己申告制度のメリットといえます。
メリット3:課題に合わせて運用できる
自己申告制度の三つ目のメリットは、組織課題に合わせて運用しやすい点です。自己申告制度は柔軟性が高いため、組織課題や人事評価制度に合わせて容易に運用できます。例えば、成果主義を採用している場合は、キャリアの意向や能力・適正に注目し、自己申告制度を目標管理と組み合わせて運用するとよいでしょう。一方、専門スキルや資格を重視する職能主義の場合は、資格やスキル・適正に着目し、自己申告制度と職業能力評価基準を組み合わせて運用すると効果的です。会社としての組織課題や人事評価制度に合わせて運用しやすいのも、自己申告制度の大きなメリットといえるでしょう。
デメリット:不満が出る場合もある
一方、従業員の自己評価と会社の人事評価に乖離があると、従業員の不満につながる可能性もあります。従業員は適切に評価されていないと感じると、仕事に対するモチベーションが大きく低下するでしょう。さらに、自己申告制度に基づき人事異動の希望を出したとしても、必ずしも希望通りの人材配置が行われるとは限りません。申告内容は人事異動の判断材料にはなりますが、最終的な人材配置は人材の過不足や従業員の育成方針に基づき決定されます。自身の希望が通らない事態が続くと、従業員は自己申告制度を無駄な制度だととらえ、不満に感じる可能性もあるでしょう。従業員に不満を抱かせないためには、制度自体が形骸化しないよう目的を明確化し、丁寧にフィードバックする必要があります。
自己申告制度の活用事例に学ぼう
東京ガス株式会社
世界最大級の都市ガス事業者である東京ガス株式会社では、従業員が仕事にやりがい・働きがいを感じられるよう、適材適所の人材配置を実現するため自己申告制度を導入しています。従業員の自己申告と上長の所見を人事システムに登録することで、人事異動の計画やキャリア開発に役立てることが可能です。さらに、通常の人事異動に加え、新規事業などに従業員自らが自発的に応募することができる人材公募制度や、希望職種にチャレンジできるフリーエージェント制なども導入しています。自己申告制度とこれらの制度を組み合わせることで、挑戦する従業員への機会提供の強化が可能です。東京ガス株式会社は、自己申告制度を活用することで自ら学び続ける従業員を後押ししています。
トヨタ自動車株式会社
日本が誇る自動車メーカーであるトヨタ自動車株式会社では、将来目指すべき人物像と、実現するために必要な経験や能力を自ら考え、上司とすり合わせを行うために自己申告制度を導入しています。自己申告の際に利用されるのが、組織に必要な経験や専門性がまとめられた能力マップです。自己申告の結果などをふまえ、部門内外のローテーション(人事異動)が行われます。加えて、年度初めには保有資格に相応しい役割やテーマ、目標などの設定が必要です。1年間の能力発揮に対する評価が賃金に反映され、半年単位の成果に対する評価が賞与に反映されます。評価とその理由は上司から本人に直接フィードバックされるため、従業員は納得感を持って業務に従事することが可能です。
イオンリテール株式会社
総合スーパーであるイオンやイオンスタイルを展開するイオンリテール株式会社では、職務への満足度、職場の状況、キャリアプラン、家庭状況などを会社に申告するために、自己申告制度を導入しています。自分のキャリアは自分で切り拓くという考えのもと、自己申告制度と公募制度などを活用することで、従業員自らの意思で希望する事業や職種にチャレンジすることが可能です。また、イオングループは国内外でさまざまな事業を展開しており、会社の枠を超えた人事異動も推進しています。自己申告制度は、担当業務や赴任場所、異動時期などの希望を直接会社に申告できる非常に重要な機会です。
まとめ
自己申告制度についてご紹介しました。自己申告制度とは、職務への満足度やキャリアの意向、人材配置・人事異動などの希望、能力や問題点などを会社に申告する制度です。従業員自らの自己評価と上司の評価をすり合わせることで、公平・公正な人事評価が可能となります。また、自己申告に基づき適材適所な人材配置が可能となり、従業員のモチベーション向上も期待できるでしょう。一方で、従業員の自己評価と会社の人事評価に乖離がある場合や、希望通りの人材配置が行われなかった場合、従業員は不満を抱き仕事に対するモチベーションが大きく低下する危険性があります。自己申告制度を導入する場合は、制度が形骸化しないよう目的を明確化し、丁寧にフィードバックを行うなどの工夫が必要です。